第72章 今日の猫来井さん
「只今戻りました…」
ここは家政婦派遣事務所。
私はここの所長の猫島茂子よ。
猫来井さんがタイムカードを押しています。
「あら…猫来井さん、お疲れ様」
「猫島さん…」
じわっと猫来井さんの目に涙がたまっています。
「あらあら…どうかなさったのかしら?」
慌てて猫来井さんの背中を擦ります。
「…いえ…あの。ご契約2件増えました…」
「あらあら。じゃあ書類をお作りするわね?」
「はい。よろしくおねがいします…」
メモを猫来井さんから貰うと、なでなでと頭を撫でました。
「猫来井さん、筋がいいのねえ。あっという間にご契約が満杯ね」
「はい…」
「これからも励んでくださいましね?」
「えっ…あっ…!?」
ドギマギと猫来井さんが真っ赤になります。
「…どうかなさったの?」
「あ、仕事ですよね?仕事…がんばりますっ!お疲れ様でしたぁっ…」
カバンを持つと、猫来井さんは飛び出すように帰っていきました。
「変な猫来井さん…」
メモを見ると、新規のお客様は猫本さんと猫葉さんという方だった。
「あら…皆さん独身なのね…お友達かしら?」
その時、外で大きな物音がしました。
何事かと窓から外を見ると、猫来井さんが暗い道で立ちすくんでいるのが見えました。
傍には同じ家政婦のミニチュアピンシャーの岡田さんが立っていました。
「猫来井!今日も良いケツしてんなあ!」
「にゃっ…岡田しゃん、にゃめてぇぇぇぇ~…」
今日も、猫来井さんは人気者のようです。
「うふふふ…程々にね~お二人さん」
「ういーっす!」
「猫島さんっ…」
パタンと窓を閉じると、私も帰る支度をしましょう。
「たぁすけてぇぇぇぇぇ~」
なにか聞こえた気がしますが、今日はもう店じまい。
猫島家政婦派遣事務所は、今日も平和です。
【今日の猫来井さん おわり】