第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
咄嗟に紫蘭を後ろに突き飛ばした。
男の蹴りが俺の左頬に入って、身体が吹っ飛んだ。
壁に激突して、頭を打った。
一瞬目の前が歪んで、星が飛んだ。
それでも、紫蘭を守らなきゃいけないから俺は立ち上がった。
「気が済んだでしょう?お帰りください」
「客に向かっていうセリフかっ!」
また今度は拳が飛んできた。
「雅紀ぃっ…」
なんとか受け止めると、男の腕を抱え込んで動きを抑えた。
「紫蘭っ…早く部屋を出ろっ…!」
紫蘭は床に倒れ込んだまま、動けない。
恐怖で足がすくんでしまったのか。
どうしよう…そう思っていると、入り口から正広さんが駆け込んできた。
「雅紀っ…紫蘭、無事か!?」
慌てて紫蘭を引き起こすと、部屋子に託した。
部屋子は紫蘭を引きずるように部屋から出した。
それを見届けると、正広さんは静かにこちらに歩いてきた。
にっこり笑って何かを懐から出した。
スタンガンだった。
「まあったく…ここの評判知らないわけじゃないだろうにねぇ…」
気絶した男をぐるぐるに簀巻にして二人がかりで抱えて、車のトランクに放り込んだ。
「明日の朝、達也に連絡して引き取ってもらうわ」