第68章 傾城屋わたつみ楼-常磐色-
ここは遊郭…
偽物の愛を囁き合って、ひと時の快楽を得るための場所。
その為なら、俺たちはどんな嘘だって口にする。
「俺たちは…嘘でできてんだよ…朽葉…」
嘘を塗り重ねて、嘘を着て歩いて…
そんなことをしてるうちに、俺たちは存在自体が嘘になっちまったんだ。
「なにが本当かなんて…自分ですらもわからねえんだ…」
だから、娑婆に戻ったら、一気に現実に戻る。
朽葉、おまえのその気持ちも…
きっとこの龍宮城から出てしまえば、煙のように消えちまうんだ
「雅紀さんっ…」
そんなある日、夜中に店番をしていると紫蘭の部屋子が帳場に飛び込んできた。
「どうした」
「紫の間の様子がおかしいんです」
「どうおかしいんだ」
「中から紫蘭さんの呻き声がするんですっ…」
急いで部屋子と二人で二階に駆け上がった。
紫の間の前に立つと、中から呻くような声が聞こえる。
「正広さんを起こして来るんだ」
部屋子にそう言うと、部屋の襖を開いた。
すぐに居間の襖も開け放つと、奥の間の襖が開いてるのが見えた。
「紫蘭っ…」
奥の間から、襦袢姿の紫蘭が上半身だけ出して床に倒れていた。
「雅紀…」
薄暗い中、紫蘭の口の端から血が流れているのが見えた。