第63章 reflection -fromあなた-
ご飯を奢って、ファミレスの前で別れた。
なんだか名残惜しかったけど、智くんは振り返りもしないで駅の方に消えていった。
「あっ…湿布代払ってない!」
次のバイト日。
まだ足は痛んだけど、でも歩けるようにはなってて。
バイト帰り、レッドキャップに行ってみた。
「大野?あー。ちょっと待って」
店員さんに智くんの名前を言うと、奥に引っ込んでいった。
暫く待たされると、智くんがひょこっと顔を出した。
「おお…櫻井くん。足、平気?」
智くんは手に絵の具をいっぱいつけて俺に手を差し出してきた。
「わ…なにその手」
「あ。わり…デザイン画描いてたから…」
慌てて手を引っ込めると、ごしごしとGパンで拭いている。
…だから、そのGパン絵の具だらけだったのか…
智くんはそのショップで、デザインを担当してるってことだった。
「わー凄いなあ…」
「ちょっと、待ってて。もうすぐ上がりだから」
暫く店の前で待ってると、あの時と同じキャップを被って出てきた。
「どっか飯いく?」
ちょっとだけ、嬉しくなった。
「うん!」
照れくさそうに笑う智くんの顔をみたら、もっと嬉しくなった。
この時は、なんでこんなに嬉しいのかわからなかったけど…
何年も後で、唐突に俺は智くんのことが好きなんだってきづいて。
それから、時間を掛けて智くんとつきあうようになって…
マンガみたいな出会いだったけど、俺には一生忘れられない思い出になった。
ねえ…あなたは、どうだったのかな…
あっちで、教えてよね…
【END】