第62章 新・忍びのむに
ちょっとだけ、寒い気がした。
もう夏も近い。
今日の昼間なぞ、暑くて川に入って涼んだくらいなのに。
そっと身体を擦ってみるけど、寒いのは気温ではないようだった。
「はぁ…」
溜息をつくと、ごろりとお堂に寝転がった。
寒いのは潤之介が居ないからだ。
そんなことに気づいてしまって、無門は滅入った。
しかし、ゴロゴロとしていてもなんだか虚しい感じは広がるばかりで。
しょうがないから近くの川に降りて、着ている着物ごと身体を洗った。
着物を絞って素っ裸のまま寺に戻ると、階段に見慣れた濃い顔が座っていた。
「あんた…」
「おお…戻られたか。俺もここに泊まるゆえ…」
やっと潤之介はちょっと笑った。
でも無門はその顔をみたら、腹が立った。
「調子の良いことをいうな。布団は一組しかないわ!」
「なんでじゃ。一緒に寝ればいいだろうが」
「んがー!そんなわけにいかねえだろ!」
翔之進の顔がちらちらした。
あいつのものだった胸にまた顔を埋めることなどできないと無門は思った。
思ってから、おかしなことに気づいた。
なんで俺はこいつと毎晩抱き合って寝ていたのだ。
「だったら俺は山で寝る!」
もう訳がわからなくなって手に持っていた濡れた着物を潤之介に投げつけた。