第62章 新・忍びのむに
雑賀の衆をそのまま眺めていると、最後尾に馬に乗る武者があった。
「あ…」
潤之介は編笠を上げて、その武者を見上げた。
無門も一緒に見上げる。
髪を茶筅に束ねて、きりりとした眉にどんぐりのようなくりっとした目を持っている。
男にしておくには惜しいような風貌だ。
薄鼠の着物に馬袴の軽装ではあるが、いい武者っぷりだった。
どうやら鉄砲の訓練の帰りらしい。
「なんだ?知り合いか?」
応えず、潤之介はその武者を凝視している。
やがてその馬上の武者も潤之介に気づいた。
「潤之…!」
思わず叫んだ声を聞いて、潤之介は踵を返した。
「ちょ、ちょっと!?」
逃げるように潤之介は駆けていく。
とうとう泊まっていた寺の近くの河原まで戻ってしまった。
「ちょっと…なんだってんだよ…」
「いや…なんでもない…」
川の流れに頭をじゃぶじゃぶと付けて、潤之介は黙り込んでしまった。
「しまった…」
耳を澄ますと、蹄の音が聞こえる。
さっきの武者が追いかけてきたのだ。
「潤之介…!」
無門と潤之介の姿を捉えると、その武者は馬からひらりと舞い降りた。
「無事だったのか…!」
叫ぶように言うと、そのまま潤之介を抱きしめた。
無門は呆然とその様を眺めるしかなかった。
ぽたぽたと潤之介の髪から水が落ちている。
潤之介を抱きしめる武者の肩に、水の雫が染みていく。
「久しぶりじゃの…翔之進…」
ゆっくりと潤之介の右手が、翔之進の背中を撫でた。