第57章 願わくば花の下にて恋死なむ
「彼が…手紙で知らせてくれたんだ…」
「え…?」
翔が顔を上げた。
「あれは…俺が大学を辞めた年の夏…だったかな。荷物、送ってくれただろ?」
その時、翔の元に一通の手紙が届いた。
それは和也からのものだったという。
「最初はなにかのいたずらかと思って返事もしなかったんだが…ずっと、彼は俺に手紙を呉れてたんだ…」
「なんで…?」
「潤のこと…ずっと…教えてくれてた…」
「なんでそんな…」
翔はスーツのジャケットの懐から、封筒を取り出した。
「これ…読んでみて…?」
受け取ると、癖のある字が書いてあった。
”松本教授へ”
和也の字だ。
桜の木の下を見ると、もう和也の姿はなかった。
慌てて封筒から便箋を取り出して読み出した。
そんな俺を、翔は桜の木の下のベンチまで誘って、隣に座り込んだ。
「ゆっくり…ちゃんと読んで」
「…わかった…」
かさっと音を立てて便箋を掴んだ。