第5章 翼をもがれた竜-episode1-
「ボン、新しい舎弟が入りましたよ」
城島さんが俺を小さな部屋に連れて行く。
「もうっ!邪魔すんなよ…」
「ボン…もう、いい加減になさい」
優しい声が少し険しくなる。
「櫻井、入り」
ドアから顔を覗かせると、城島さんは部屋に入っていった。
後に続いて入ると、そこは絵の具の匂いが充満していた。
部屋の真ん中にはイーゼルが置いてあって、その前に猫背の少年が座っていた。
「ボン、新入りの櫻井です。あなたの舎弟にしますからね」
「はあ?だから、俺はヤクザにはならねえっていってるだろうが!」
「いつまでそんなこと言ってんねんな!」
いきなり城島さんがイーゼルを蹴りあげて、キャンバスが吹っ飛んでいった。
「なにしやがんだ!城島!」
少年も負けていない。がなり返すと城島さんのすねを蹴りあげた。
「いったー!このおお!クソ坊っちゃんめっ!」
わーわー取っ組み合いが始まって、俺は呆然とその光景を見ていた。
毎日、こんなことしてるんだろうか…ヤクザって…
なんか、思ってたのと違う…
俺は櫻井翔。
今日からこの大野組の下っ端になる。
住み込みでここの坊っちゃんの世話をしろと言われてここに来た。
組事務所の雑用だとばかり思っていたから、正直驚いた。