第52章 【Desire】24 ゆなゆさまリクエスト
夕方、目が覚めてシャワーをすると、宿のご主人が俺たちを呼びに来た。
隣の由布島に渡っている牛車が引き上げてくるから、見に行こうと。
ワンボックスカーを出してくれて、ぷち観光に行った。
「ほんとは、乗ってもらいたいけどね。和也さんだめでしょ~?」
言葉尻が上がるイントネーションにも、だいぶ慣れた。
「そうですね、酔っちゃうから…」
「もったいないねえ?翔さん?」
「ふふ…そうですね…」
由布島は植物園になっているというから、一度は行ってみたいけど…酔わない自信はない。
牛車のならぶ浜辺についた頃、辺り一面鮮やかなオレンジ色に染まっていた。
遮蔽するもののなにもないこの島では、いつでも綺麗な夕焼けを眺めることができた。
どこまでも広がるオレンジ色のスクリーンのような空に、それを映す海が、水平線の彼方まで鮮やかだった。
もう牛車は営業を終了していて、これから牛舎に引き上げるところだった。
翔と二人、浜辺に座っていつまでもその光景を眺めていた。
ポケットに入れていたスマホが鳴り出した。
翔から少し離れた場所で電話に出ると、東京からだった。
「へえ…そりゃまた…」
ある程度予想はしていた報告だった。
「やるねえ…」
あの郵便でビビるかと思ったけど…甘かったかな。
「じゃあ、大野先生を来週こっちに寄越してくれる?理由はなんでもいいから」
指示を出すと、電話を切った。
翔が心配そうにこちらを見ていた。
「どうしたの?東京から?」
「ああ…大野先生がね、調子悪いみたいで…」
「えっ…大丈夫かな…」
「来週、ちょっとこっちに来てもらうよ」
「なんで?」
「休養してもらうのと…ちょっと頼み事があるから」
「ああ…それはいいね。ニラカナイに部屋、取っておこうか」
「そうだね。近くに居てもらったほうが便利だね」
翔は久しぶりに会える同僚であり友人のことを考えて口元をほころばせている。
大野先生は…これからの内科医局の大事な駒なんだ…
失うわけにはいかない
大事な翔の生きていく場所なんだから…
相葉室長…まだまだ甘いんだよ…
身体だけ手に入れても、前には進めない
あんたに、その覚悟はあるのか?
悪徳の華の咲かせ方
見せてやるよ
じっくりとな
END