第50章 【Desire】22 チャコさまリクエスト
「櫻井…櫻井…?」
目を開けると、部屋の中は明るい。
朝が来ていた。
「あ…?」
「目が覚めたか…?酷く、魘されていたから…」
「すいません…松本さん」
家令の松本さんがベッド際に腰掛けていた。
「なにか…欲しいものはないか…?」
「いいえ…大丈夫ですから…お戻りください」
「いい…旦那様は伊豆の別荘に行かれた。だから時間はある」
「え…?伊豆に…」
随分急な出立だ。
最も…ここ数日、部屋で伏していたから、二宮の家の状況などわからないが…
「一緒に行かなくてよかったのですか…?」
「ああ…今回は仕事も絡んでいるから、加藤が一緒に行った」
「そうですか…」
加藤とは私と一緒にフットマンから二宮の家に仕えている執事のうちの一人だ。
ビジネスの才覚を旦那様が見出し、今では懐刀とも言われている。
「だから…なにも気にせずゆっくり休め」
「はい…すいません…」
そっと目の上に手のひらが乗せられた。
「後で朝食を持ってくるから、もう少し眠れ…」
「はい…」
松本さんの手のひらの温度が心地良い。
囁く様な低い声に引きずり込まれるように、眠りに落ちていった。
「いい子だね…櫻井…」