第49章 【Desire】21 kurisuさまリクエスト
彼はいつも、深夜に来る。
「翔…」
「あ…来てくれたの…」
寝室の暗がりから、滲むように姿を表すと彼は微笑む。
「またお熱出たの?」
「うん…でも、今日のはたいしたことはないよ?」
「そう…」
彼はベッド際に腰掛けると、僕の額に手を伸ばしてきた。
「でも…少し熱いね…」
「そう…?」
小さい頃から、入退院を繰り返してきた。
学校に行くことも叶わなかった。
原因はわからない。
だから治療法もない。
症状が現れたら、対処するしかなかった。
お祖父様が空気のいいところならと、別荘を僕にくれた。
それが3年前のこと。
僕は一人でこの別荘で暮らすことになった。
お父様もお母様も東京で仕事があるから…
使用人たちもいるし、入院ばかりしていたからさみしいとは思わなかった。
むしろ…僕のことで、両親の心を煩わせてるのを見ることがなくなって、ちょっと楽になった。
ある日、深夜に悪夢を見た。
今になったらそれがどんな夢だったかは思い出せないんだけど…
魘されて目が覚めたら、彼が居たんだ。
僕を心配そうに覗き込んでいて…
目が合うと、微笑んだ
だあれ?と聞いても、答えない。
名前は?と聞くと、ないという。
でも名前がないと不便だから、読んでいた小説の主人公の名前をつけた。
雅紀―――
それから毎夜、僕の寝室には雅紀が来る。
雅紀は多分…人ではない
「怖い夢は、見なかった?」
「うん…大丈夫…」
「そう…良かった…」
さらさらの額にかかる前髪を撫でてくれる手は冷たい。
そして、その瞳は…
赤い。