第45章 【Desire】17 りおなさまリクエスト
ゆらり、無門の影が揺らめいたかと思うと消えた。
目で追っていた雅は飛び上がって、木の枝に身を移した。
「雅…殺して欲しいか」
頭上から、物凄い殺気と無門の声が聞こえた。
身体が石になったように動かない。
今まで感じたこともない、大きな殺気だった。
「俺はおまえを殺さぬ」
「…殺せ…」
背中に冷たい汗が流れた。
殺さぬというのなら…この殺気はなんだ…
「翔との暮らしを邪魔するというのなら、殺す」
今まで聞いたことのないような冷たい声
「…だがな、雅…」
突然腕を取られたかと思うと、宙に舞い上がっていた。
「っ…」
いつ舞い降りたかわからない。
気がついたら潤と折り重なるように倒れていた。
足元に無門がしゃがみこんでいた。
「…雅よ。俺はおまえの欲しいものはやれぬが…潤ならば、おまえの欲しいものを持っておるのではないか…?」
「え…?」
「生きろ。おまえと潤は、ここで死んだことにしておいてやる」
「無門…」
ふっと無門は笑った。
それは…あの時みたいな、泣いているような笑み。
「悪かったな…」
あたりはもう薄暗い。
いつの間にか、翔の姿も無門の姿も見えなくなっていた。
暫く呆然と小屋を見ていた雅は、身体の下にいる潤に気がついた。
「潤っ…」
地面に倒れ伏す潤は、気を失っていた。
「しっかりしろっ潤…」
何度か揺さぶると、潤は目を覚ました。
「雅…」
ぼろぼろと大粒の涙が溢れた。
「翔どのが…見逃してくれた…」
「ああ…ああ…」
潤の身体を力いっぱい抱きしめた。
それからしばらくして、伊賀の里に潤の着物の袖の一部分が届いた。
潤と雅は、死んだ
そう相葉の家に通達が来たのは、冬のことだったという
END