第41章 【Desire】13 ガーベラ♡さまリクエスト
去年は、桜が咲くのが遅れていたんだ。
入学式はまだ蕾だった気がする。
だからって訳でもないんだろうけど。
僕の高校生活の記憶は桜が満開になったときからやっと始まる。
その日、移動教室で校舎を繋ぐ渡り廊下を一人で歩いていた。
かっこ悪いんだけど、迷子になっちゃって…
もう始業のベルが鳴ってて、完全に遅刻なのはわかってた。
ここはマンモス校だから、校舎がいくつもあって…
増築を繰り返したらしく、作りが複雑で。
毎年迷子になる新入生がいるから、どこかしこに見取り図なんて貼ってあるけど。
それでも僕は迷子になってしまった。
「視聴覚室どこだよー…」
授業が始まってるから、校舎はシンとして。
休み時間の賑やかさが、恋しかった。
ぽつんと一人、人類が滅びて取り残された気分になるから。
渡り廊下を駆け抜けると、目の前の校舎に飛び込む。
見取り図を探したけど無くて…
「どうしよう…」
でも確か、視聴覚室ってこの校舎だったよね…
オロオロして左右を見渡したけど、誰も居るはずもなく。
とりあえず、階段の昇降口が見えたからそこまで走っていって…
3階だった気がするから、階段を駆け上がった。
「あれ…」
記憶している風景とは違った。
視聴覚室のあったところは、もっと明るかった気がする。
「まちがえちゃったかな…」
引き返そうとした僕の耳に、カタリと物音が聞こえた。
それは右手の突き当たりにある美術室から聞こえた。
もしかして誰かいるかもしれない。
恥ずかしいけど、視聴覚室はどこですかって聞いてみよう。
シンとした教室は、誰も居なかった。
「いない…」
ちょっと怖くなって声に出して呟いた。
美術室って…なんか石膏の像とかおいてあるから、なんとなく怖い。
すぐに出ようとして、ドアの方を振り返る。
その時、奥にある美術準備室から人が出てきた。
「ひゃっ…」
「わ…びっくりした」