第36章 【Desire】8 くりんさまリクエスト
「ん?」
不思議そうな顔でじっと顔を見られた。
やばい、にやけて変な顔してたかも。
「な、なんでも…」
もじもじしてたら余計おかしな感じになって、トイレに行こうと席を立った。
「すんません。ちょっと通して…」
板敷きの狭い個室を、他のメンバーの背中を避けながら歩いて行く。
「わっ…」
図体のでかい松岡さんの後ろを通ったとき、壁に足がぶつかって躓いた。
「潤っ…」
松岡さんが咄嗟に俺を抱きとめてくれた。
「おま、気をつけろよなぁ…」
「す、すんません」
システム開発の責任者である松岡さんは、俺の先輩で。
頼れる兄貴みたいな存在だった。
「やっぱかわいいなあ!潤!」
「えっ…ちょ…」
「早く俺んとこ嫁にこいや!」
「や、やめてよ!松岡さんっ…」
これは飲み会の時の定番のネタで…
松岡さん、誰かれ構わず嫁にこいという変なくせがある。
綺麗な嫁さんいるのになあ…
突然ぐいっと腕を引かれた。
「えっ…」
「ほら、早く立てよ。潤」
櫻井さんが、俺の腕を引っ張ってた。
「え…は…?」
「行くぞ、潤」
名前…呼び捨て…
スタスタと櫻井さんは俺を連れて個室を出た。
「あ…あの…櫻井さん?」
なんだか怒ってるみたい…どうしたんだろ…
「あのさ」
「は、はいっ…」
それきり、櫻井さんは俺の顔をじーっとみて黙ってる。
だんだんどうしていいかわからなくて、顔が赤くなってくる。
「え、えと…あの…?」
いつの間にか、顔が目の前にあって…
「や…あの、近い…」
「嫌…?」
「えっ…い、嫌じゃないけど…」
「けど?」
「あの…俺、男…」
「わかってるよ」
だったら離れてよ…
この距離心臓に悪い。
握られたままの腕が熱い。
そっちに気を取られてたら、いきなり顎をくいっと上げられた。
「え…?」
真剣な目をした櫻井さんが、呟いた。
「やっぱかわいい」
「え…?」
ぎゅうっと抱きしめられて、気絶しそうになった。
「…俺んとこ、嫁こない?」
これはきっと夢だ。
そう思ってたら、櫻井さんからキスされた。
熱い唇の感触…夢じゃない
「返事は?」
「は…はいっ…喜んで!」
END