第32章 【Desire】4 さちえさまリクエスト
終業のベルが鳴ると、一斉に教室はざわめく。
これから塾に通うもの、部活にまだ籍を置いているから急いで教室を出ていくもの。
受験期の俺たちには休息はあまりない。
俺はと言えば、推薦で美大に行くことが決まっているのでのんびりとしたもので…
寮に帰るべく、荷物をのんびりとまとめる。
「大野ー」
クラスの入り口のドアから俺を呼ぶ同級生。
「んー?」
「お客だよ。二宮」
「あ…」
急いで荷物を持って入り口に向かうと、廊下でもじもじと二宮が俺を待っていた。
「ど、どうした?」
この前、キスしてから…
あれから二人きりになることもなくて。
だって俺達は全寮制の学校に通っているから…
「あ、あの…もし時間あったら、油絵…教えてほしくて…」
「ああ…いいよ。時間ならあるから…」
ぱあっとひまわりみたいに笑うと、二宮はちょっとだけうつむいた。
か、かわいい…
鼻血が出そうなのを堪えて、二人で肩を並べて歩き出す。
「二宮は、今まで絵とか描いたことないんだよな?」
「うん…」
ちらっと俺を見上げる頬は、赤くなってて…
思わずむらっとした。
「大野先輩?」
「えっ…あ…」
ぽりぽりと頭を掻いてごまかしておいた。