第27章 SATOKO
その瞬間、信じられないことが起こった。
松本さんの腕が、俺の身体を抱きしめたのだ。
背中に、松本さんの体温を感じる。
いつもつけてる香水が、強く香ってきた。
「待ってよ…帰らないで…?」
「は…離して…」
「嫌だ…帰さない」
もう何が起こってるのか、わからない。
この状況に頭がちっともついていかない。
「や…やだぁ…おうち、帰るもんっ…」
なんだかわからないけど、帰らなきゃいけない気がしてた。
「待って…落ち着いて?サトコちゃん…」
「や、やだぁ…帰るう…」
ぎゅうううっと俺を抱きしめる腕に力が入った。
「…かわいい…」
突然ぐるりと身体の向きを変えられた。
松本さんの濃い顔が、目の前にある。
松本さんの目に、吸い込まれた。
やっぱり間近で見ても、松本さんはきれいな顔で…
こんな状況なのに、ずっと眺めていたいと思ってしまった。
俺の頬を手で包むと、にっこりと笑った。
「目。閉じて?」
「え…?」
「いいから…」
段々顔が近づいてくる。
これって…え?これって…
ドアに身体を押し付けられると、松本さんの唇が重なった
「ふふ…大野さんの唇、柔らかい…」
バレてた
「俺のために、こんなことしてくれたんだね…嬉しい」
唇が離れていくと、抱きしめられた。
「え…?いつから…わかってたの…?」
「ん?もう、最初から」
「なっ…何でわかったの!?」
「んー…この前松岡さんに、大野さんが新年会で女装したって聞いて…俺、色々想像しちゃったんだよね…」
「ええっ…」
「そしたらさ、思った通りの女の子が来たじゃん…?すぐにわかったよ」
「う…嘘でしょぉっ!?」
「それに俺、一度見た顔は絶対に忘れないんだ」
「へ…へ…?」
「…サトコ…かわいいよ…」
またちゅっと唇が重なった。
松本さんの手が、ニットの中に入ってくる。
「まっ待って…誰か来るからっ…」
「大丈夫、看板さげてきたから」
「ええっ…!?」
その日、信じられないことがもう一つ起こった。
俺のバージンが奪われたってことだ。
もちろん松本さんに、ね。
END