第27章 SATOKO
そろりと玄関でブーツに足をねじ込んだ。
「うわ…」
ウィッグの髪の毛が、ブーツのファスナーをあげようとした瞬間顔に掛かってびっくりした。
「そっか…そうだよな…」
女の人って大変だな…
毎日ホラーじゃないか…
あ、でも毎日のことだから慣れてるのか?
なんとかブーツを履き終わると、髪を直す。
さらりと後ろに流すと、もこもこコートの裾を叩いた。
「どうか…上手くいきますように…」
マンションの外に出て、大通りに出ると流しのタクシーを捕まえる。
「…六本木まで…」
努めて高くて小さい声を出す。
…やっぱ、わかるかな…
運転手さんはチラチラとバックミラーで俺を見てる気がする。
そうだよなあ…だって女装してるけど、俺、男だもん。
街は夕暮れで。
ちょっと薄暗くなってきて、やっと俺は安心した。
東京は明るいけど、夜になったら自分の正体を覆い隠してくれそうな気がしたからだ。
六本木のアマンド近くでおろしてもらうと、商業ビルの地下に入る。
ここはショットバー。
「いらっしゃいませ」
扉を開けると、とびきり顔の濃い男がカウンターの中から出迎えた。
「お一人ですか?」
無言で頷くと、男は目の前のカウンター席を手で示した。
「どうぞ、こちらに」