第25章 カウントダウン
パタリ
シンクに落ちる水滴の音―――
「なんで…?なんでなの…?」
息ができない。
Tシャツの襟元を掴んでみるけど、やっぱり息苦しさは変わらない。
真っ暗な部屋はあなたの姿を写すことはない。
目の前にはただ、闇。
「…まだ、間に合うよ…?」
あなたと暮らすために借りたこの狭い部屋
6畳のリビングとキッチン。
これだけあれば十分だった。
「まだ…戻れるよ…」
僕の手が、温かいうちに
キッチンの安っぽい板敷きに崩れ込んで、いつまでも立ち上がることはできない。
手に持った果物ナイフが震える。
「翔…」
見間違いかと思った。
だけど、僕が間違えるはずはない。
あの後ろ姿。
あのシルエット。
彼が、女と一緒に歩いていた。
それも、手を繋いで。
その笑顔は見たこともない顔で。
精一杯、格好つけて…
飲食店に入るドアを、女の先に立って開けた
たった、それだけ。
でも、僕にはわかる
あれは、あなたの恋人だね
果物ナイフが、光る。
早くその腕を裂きたいと暴れだす。
「ぐっ…」
腕に押し当てた刃から、焼けるような痛みが走る。
鮮血が吹き出て、床を濡らしていく。
あなたは、帰らない