第23章 BOY【S side】 EP.2
「そんな櫻井ちゃんに、ご指名です」
「ああーい」
雑誌を放り投げて、立ち上がると藤ヶ谷くんはニコニコして俺に書類を渡してくれた。
「はい。今日限りで、この仕事終わりね?」
「え?」
「詳しいことは、今夜の出張先で聞いてください」
そう言うとひらひらと手を振って、奥の部屋に入っていった。
「いってらっしゃ~い。櫻井ちゃん」
車を降りると、送迎のお兄さんはにっこりと笑ってウィンクしてくれた。
そのまま車は俺を置いて走っていった。
…まだ、信じられなかった…
車の走り去った方向を眺めたまま、俺はその場から動けずに居た。
本当に…?ほんと…?
それから、10分も20分も…その場から動くことができない。
寒くて手がかじかんでもまだ動けなかった。
動き出したら、夢から覚めてしまいそうだった。
次の車が通り過ぎたら、足を動かそう。
そう思いながら、何十台も車のテールランプを見送った。
やっぱり…怖い…
勝手に足が、駅の方向に向いたその瞬間…
後ろから温かいふわふわに抱きしめられた。
「もー…遅いから見に来てみれば…なにやってんの?」
夢の声がした
「こんなに冷え切っちゃって…バカだな。翔は…」
振り返ると、眩しいばかりの4人の笑顔が見えた。
「ようこそ!株式会社アテナへ!」
生まれたばかりの夢が始まろうとしていた
【S side EP.2 END】