第1章 雪の華 -KAZUNARI-
覚えているのは、工場の機械が軋む音。
凄く大きな音で、お腹がぶるぶる震えてた。
俺の手を掴む父親の手は、ガサガサに荒れていた。
顔を見上げると、疲れきった顔をして俯いている。
俺の靴のかかとには、大きな穴が空いていて、その時降っていた雨が滲みて冷たくて…
「オイ、和也」
ブランコに乗っていたら、現実に引き戻された。
キィキィ軋む音が、あの日聞いた機械の音にそっくりだった。
「はい、今」
公園の柵のすぐ外に、いかにもなレクサスが止まっている。
LSシリーズ…また変えたんだ…。
この前までGSシリーズだったのに。
「乗れ」
サングラスで坊主の兄さんに顎をしゃくられ、後部座席に乗り込む。
「おつかれさんです。坊ちゃん」
「おう」
この人は関東昇龍会に属している松本組の組長の息子、松本潤。
俺が今スパイに入っている同じく関東昇龍会大野組とは敵対関係にあると言っていい。
なんたってこの坊が、大野組を潰したがっているからだ。
どうしても関東昇龍会の跡目を松本の親父っさんに執らせたい。
それにどうやら、大野組の若、跡取りの大野智に個人的恨みもあるようで…ギラギラした目で、狙ってる。
ま、この世界、どうせ切った張ったが常なんだ。
義兄弟だろうがなんだろうが、やるときゃ血まみれの争いだ。
俺はただ…上の言うことに従ってりゃいい。
なんなら、鉄砲玉だって厭わない。
この人のためなら…