第2章 翼をもがれた竜-episode0-
こいつらは、俺達が足抜けするのを手伝ってくれる約束をしている。
なんでかって?
こいつら、組長に人として惚れてるんだ。
だから組長のためにはなんだってしてやりたいって思ってる。
いわば、俺とは同じ穴のムジナってやつだ。
俺もヤクザとしてのあの人にも、人間としてのあの人にも、オトコとしてのあの人にも惚れてる。
だからあの人の望むことはなんだって、叶えてやりたいんだ。
今は翼竜会の幹部である叔父貴たちの弱みを握るべく、調査をしている。
叩けば埃はたくさん出てくるが、もっとヤバイネタを探してた。
「ま、ネタはあるんですよ。裏がとれてないから、もうちょと待っててください」
二宮が言うと、松本は頷いた。
相葉はスーツの懐から封筒を出して二宮に渡した。
二宮と松本はそれを受け取ると、頭を下げて部屋を出て行った。
「若頭…」
「ん…?」
「無理だけはしないでくださいね?」
相葉の気遣わしげな声に頷いた。
「ああ…無茶したって、死ぬだけだからなぁ…」
「また…もうやめて下さいよ!若頭のはシャレにならないんだから!」
相葉は世話好きな女みたいなことを言う。
「冗談じゃなきゃ、俺、死ぬじゃねえか」
「もうだから、そういうことは言っちゃいけないんですから」
ドンと俺の前に、緑茶の入った湯のみを置いて、相葉も出て行った。
苦笑いしながら茶を啜る。
待ってろよ…さ、智…
組長なんて重責、早くその肩から降ろしてやるよ。
そして俺と一緒に、海辺のあの家に…
二人で住もうな…
俺はニヤニヤしながら、イスに凭れた。
そのまま、眠りに落ちていった。
昨夜の智の夢を見ながら。
「智…もう、出るものない…」
【END】