第11章 藪の中 reborn
気を失った翔を抱え、体を拭いてベッドに寝かせる。
たった半日の間のことなのに…
皆に、俺達が付き合うって言ったことが遠い昔に思える。
深く眠る翔の髪を撫でながら、眠りに落ちていく。
そう…
時間が解決してくれる。
あんなこと、大したことじゃない。
俺たちは愛し合ってるんだから…
ギシリとベッドが揺れた。
唇に温かい感触。
「翔…?」
目を開けると、恋人の姿はどこにもなかった。
「翔…」
慌てて寝室を飛び出す。
翔の荷物が消えていた。
玄関に出ると、靴もない。
「どこいった…!」
ジャケットを羽織って慌てて外に出る。
エントランスに降りると、翔の背中が見えた。
「翔っ…」
叫んでも届くことなく、背中は遠くなる。
「待てっ…行くなっ…」
走りだし見えなくなった背中を追う。
足が重い。
縺れるように背中が見えなくなった角を曲がると、そこにはもう翔の姿はなく。
見慣れたBMWのエンジン音。
黒いロングコートを着た男がこちらを振り返った。
「潤っ…」
そのロングコートの懐には…
恍惚とした表情を浮かべた俺の恋人が居た。
「…なんでだよ…」
二人が車に乗り込み、誰も居なくなっても俺はその場から動くことができなかった。
涙も出ない。
愛してる…
そういった言葉は嘘だったのか…
後ろから足音が近づく。
でもどける気にもならない。
そっと肩に手を置かれた。
振り返ると、そこには微笑みを浮かべたあいつが居た。
「大野さん…帰ろ?」
子犬みたいな笑顔だった。
【END】