第10章 雪・月・華 ~その白き腕に~
笑い転げる智の膝から五助が飛び降りた。
「五助!おきたの!」
きゃんと鳴く五助を追いかけ部屋の中を智が走る。
「智、急に走ったら…」
萎えた足は長い時間、智が立っているのを許さない。
ましてや走ることなんて、五助が来るまで智はしたことがなかった。
「あっ…」
潤が立ちあがって智に駆け寄った瞬間、智の身体は前のめりに倒れた。
その白い身体をなんとか受け止め、潤は安堵の息を吐く。
「智…だめだよ?急に走っちゃ…」
「うん…」
潤の腕に凭れて、智は荒い息を吐いていた。
抱きかかえ布団に横たえると、潤も横になった。
智の身体が潤に寄り添い、やがてその胸に顔を埋めた。
「智…?」
なにも答えないで、ただ智は潤の服をぎゅっと掴んだ。
「明日も…来てくれる…?」
「え…?」
「五助を…連れて来てくれる?」
それは智の本心ではなかった。
本当は潤にこそ来て欲しい。
だけど、それは言ってはならない気がしていた。
「ああ…明日も五助を連れてくるよ…」
潤の手が智の銀糸の髪を撫でていく。
その心地よさに、いつしか智の瞼は降りていく。
必死で抗うのだが、勝てなかった。
もっと…潤とおはなししたいのに…