第21章 雪の華
「いい天気…」
葬儀場を出て思いきり伸びをする。
ぽかぽかと温かい午後の日差しが俺の身体を温めていく。
あの日とは真逆の…良い天気。
数日前に寒波に襲われてたなんて信じられない程だった。
翔ちゃんからの手紙を大切に…ポケットにしまった。
あんなに声を上げて泣いたのは…何年振りだろう。
2人を見付けた時も…お通夜も葬式も…涙が出なかった。
実感が沸かなかった。
翔ちゃんがもうこの世に居ないなんて。
手紙を読んで…泣いて泣いてやっと…実感した気がする。
目は泣き過ぎて腫れたまま。
ぺしぺしと頬を叩いて俺は歩き始めた。
影山「相葉様」
振り返ると…影山さんが俺を追い掛けて来る。
「影山さん。影山さんも…帰りますか?」
影山「いえ。私は…旦那様と屋敷に戻ります」
「え?」
影山「『戻って来て欲しい』と…旦那様に。まさか頭を下げられるとは…」
「そうですか…きっと翔ちゃんも喜びます」
影山「『翔にしてやった様に…舞と修を正しく導いてやってくれ』と。何処まで出来るかは分かりませんが…務めを果たすつもりでございます。それに…これを」
影山さんがポケットから封筒を取り出す。
影山「まさか私にまで…翔様が残して頂いてるとは…」
「手紙ですか?」
影山「ええ。私の…宝物でございます」
「………そうですね」
影山「相葉様。ありがとうございました。またいつでもお屋敷にいらして下さい」
「ええ。舞ちゃんと修くんに会いに行きますよ」
影山「お2人共お喜びになるでしょう」
「じゃあまた」
影山「はい」
その時…俺達の間を風が一陣吹き抜けた。
何となくその方へ目をやると…
影山「………!!」
「………!!」
『ありがとう』
一瞬だった。
俺達がいつも見ていた…あの優しい笑顔で…。
そして直ぐに消えた。
影山「………」
影山さんは空に向かって頭を下げた。
「ありがとう翔ちゃん。幸せにね」
きっとまた会える。
いつか聞かせて。
ここでは聞けなかった2人のノロケ話を。
沢山…沢山聞くから。
俺達はいつまでも…風が抜けていった空を見上げていた…。