第21章 雪の華
ー翔sideー
「寒い…」
身体を擦りながら、俺は静かに智くんを待っていた。
1年振りに訪れた智くんの大学。
そこの…講堂の裏側にある小さな扉。
智くんと…『雪の華』を聞きながらキスした場所。
智くんと出逢って…今日で丁度1年。
この1年で色んな事があった。
凄い1年だった。
智くんと出逢って…恋をして。
そして別れた。
そして…雅紀との事。
せめて雅紀にも話をしたかった。
携帯を壊されてなければ…。
「雅紀…ありがとね」
俺は夜空に向かって呟いた。
「本当に寒い…上着きてくれば良かった…」
そう言えば…ニュースで今夜から季節外れの寒波が襲って来るって…言ってたな…。忘れてた。
「雪…降るかな」
手の平をかざしながら空を見上げる。
するとひんやりと冷たい感触。
見ると…白いふんわりとした塊。
「わぁ…本当に降って来た…」
パラパラと微かに舞い降りて来る雪。
「俺達の事お祝いしてくれてるのかな…なんてね…」
手をかざして雪を浴びようとした時、ドンッと背中に重い感覚に襲われる。
「え…?」
一気に背中が熱くなる。
「何…?」
振り返ると…そこには涙を流しながら俺を見つめる小柄な男の姿があった。
「………知念…さん…?」
その震える両手には…赤く染まった銀色に光る刃…。
侑李「っっ…行かせない…行かせない…!智さんを何処にも…行かせたくない…」
熱くなった背中を触ると…べっとりと赤いもの。
よく分からなくて…匂いを嗅ぐとむせ返る程の鉄の匂い…。
「………血…?」
そこでようやく俺は…自分が刺されたんだと…気付いた。
カシャンと音を立てて…知念さんの手からナイフが落ちる。
侑李「あ、あぁぁっっ…!」
そのまま彼は…走り去って行った。
「………智…く、ん…」
俺はゆっくりと…その場に崩れ落ちていった。