第14章 父と母の恋
ー翔sideー
智「………」
「………」
智父「………最上階には部屋がひとつだけ。他に泊まり客は居ない。しかし目撃者も居ない。だから私の代わりに…うちの組員が出頭した。あの日の事は…『大野組と松本組の抗争』というだけで大きな事件としても扱われなかった。だからきっと櫻井は…交通事故で死んだのだと…君達に伝えていたんだろうな…」
「母さん…」
智父「智が君を連れて来た時…名前を聞かなくても直ぐに陽子の息子だと分かったよ。だってあまりにも…陽子に似ているのだから…」
智「そんなに?」
智父「ああ。美人で聡明で…。好みまで遺伝するのかと驚いた。まさか男なのには驚いたがな」
智「ははっ」
智父「櫻井俊の名前が出るまで知らない振りをした」
「そうだったんですか…」
智父「男同士である以上に…息子に私みたいな辛い思いをさせたくなかった…」
智「父ちゃん…」
智父「あの日…陽子に想いを告げていれば…。あの日…『連れて逃げろ』と言った陽子を連れて逃げていれば…。あの日…無理にでも陽子をホテルから連れ出していれば…。あの日…回りに目を配っていれば…っっ…」
ぽろぽろと…お父さんの瞳から…涙が溢れ落ちる。
そして俺の瞳からも…涙が止まらない。
この人は…母さんと一緒になれなかった事を今でも後悔してるんだ…。
そして…昔と変わらず…今も心から愛してるんだ…。
俺は立ち上がり…お父さんの隣に座った。
智父「………櫻井くん…」
「母の事愛してくれて…ありがとうございます…」
智父「っっ…」
お父さんの手が…俺の頬に伸びる。
智父「すまない…私のせいだ」
「いいえ。俺も母の様に…愛する人の腕の中で死にたいと…そう思ってます…」
智父「ありがとう…」
そのまま俺達は…ゆっくりと抱き合った。
その横で智くんは静かにその様子を見ていたのだった。