第9章 赤紫
一松が俺が嫌いとは知っていた。だが、俺に死を臨む程嫌いだったなんて。
俺はその『嫌い』を受け入れることにした。
「そうか………」
一松は突然、俺の胸ぐらを掴んできた。怪我人に対して酷い行為だ。
「クソ松っ…クソ松ッッ!!何でお前はそう優しく笑いかけるんだ!?何でこうになるまで最低なことをしたのにそれでも笑いかけるんだ!?何で俺を拒絶しねぇの!?何で嫌いにならねぇの!?何で俺を殴らねぇの!?」
一松は我を失ってる。
病院内で叫んだらダメだと昔マミーに教わったじゃないか。
「こんな身体だと、お前を殴ること何て出来ないさ。」
「ッ……」
俺は捕まれた胸元を優しく離し、一松の涙に濡れた頬を撫でた。
「お前は悪くない、悪くないから。俺はここにいる。ずっと傍にいるから。」
「カラ松兄さん…」
カラ松兄さん…?
その言葉に俺はぴくりと体を震わせた。
…カラ松兄さん?
今までそんな名前で呼んでた?
いや、一松は俺のことをそんな名前で呼んではいなかった。
………いや、あったな。
俺の「妄想ユメ」の世界で。
俺が無理やり、呼ばせた名前。
クソ松なんかじゃない。
一松がちゃんと、俺の名前を呼んでくれた。
「カラ松」兄さんって、呼んでくれた。
「なぁ一松、俺の名前、呼んでくれないか?」
俺がそう、一松に問うと、一松は優しく笑って、
「カラ松兄さん」と呼んでくれた。