第6章 生命
赤と黄色が混ざってオレンジ色になった袖。
黄色い袖は、十四松だ。
いつも被った見えない手。
可愛い小さな手の平の
そのすぐ下に見えたのは、寂しい赤い傷痕。
血糊かもしれない、そう思う程鮮やかな彩色だった。
ただ、遠くからでも分かる鉄血の匂い。
十四松はその行為を、
きっと繰り返しながら笑うんだ。
「ごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さんごめんなさいカラ松兄さん……………」
狂ったように繰り返す。
お前は笑っていた。
淋しそうに。
俺は十四松を止められない。
十四松をそうしたのは、俺だから。
イタイイタイと言われることに小さな喜びを覚えてたんだ。
だって、兄弟から『俺は松野家の次男』と認識されているから。
無視されるより、ずっといい。
存在が在るなら、俺を傷付けても構わない。
俺に暴言を吐いても構わない。
だけど、
俺のせいでブラザーが傷付くのは嫌だ。
俺のせいで、十四松が傷付くのは嫌だ。
「十四松」
「カラ松兄さんだ!どうしたの?お腹すいたの?」
十四松の顔は赤い花弁が散っていた。
「十四松…その顔どうしたんだ。」
俺は分かってて質問した。
「トリックオアトリート!!血糊だよ!」
そうか、血糊か。
嘘つきな弟だ。
「お菓子くれなきゃカラ松兄さんにイタズラするぞ!!」
「おお怖い、お菓子か、えと…」
俺はポケットに入っている飴を取り出した。
「はい、これしかないが構わないか?」
十四松はべたべたの血の手で飴を受け取った。
「飴ちゃんありがとうカラ松兄さん。あとね、もう一個お願いがあるんだぁー?」
「お願いか。このカラ松が何でも聞いてやる。ブラザー?」
「おそ松兄さんを探して。」
「おそ松?」
「おそ松兄さん、カラ松兄さんを必死で探してた。行ってあげなきゃでしょ?」
おそ松が……俺を必死で探してる……?
「僕は平気だから。行ってらっしゃい。」
十四松は俺の背中を押した。
俺の背中には十四松の血がついた。