第5章 悪夢
屋根から降りるとカラ松兄さんが笑ってた。
「トド松?お前十四松と何話してたんだ?」
今のトド松はさっきとうってちがう態度だ。
「内緒話だよね♪十四松兄さん?」
トド松が握ってきた手に力が入る。
痛い。
「秘密だよ―!!!ねぇトド松?」
トド松は力を緩めてくれた。
「そうか、またいつでもいいからお兄ちゃんに話してくれよ?
そうだ!チョロ松が梨を買って来てくれたぞ!皆で食べようぜブラザー!!」
梨………
「そうだねぇ―!!梨なんて久しぶりでありマッスル!!!」
事実と僕の言葉は矛盾している。
梨は昨日も一昨日も、その前も食べた。
カラ松兄さんだけ、この矛盾に気が付かなかった。
梨なんて1ヶ月以上食べてるのに………
美味しいはずなのに、食べ慣れたせいで口の中が無味になっている。
「美味しいね!ありがとうチョロ松兄さん!」
「うん。」
カラ松兄さん以外わかり切った嘘をつく。
皆美味しくないはずなのに。
カラ松兄さんだけ嬉しそうに食べる。
いつも梨を買って来るのはチョロ松兄さんだ。
この異常性を持ったのはチョロ松兄さんだけじゃない。
あんなに兄弟思いで優しかったトド松が僕らに喧嘩を打っている。
冗談じゃなくて、本気の。
だけどトド松は僕らに比べたら体力は弱くていつも負ける。
負けたら悔し泣きをしてただひたすらに『ごめんなさい』と繰り返す日々。
トド松の気持ちも、分からなくはない。
あと、一松兄さんもおかしい。
カラ松兄さんにべったりだ。
まるでカラ松兄さん以外に興味を持たなくなったかのように。
野球バットすら手伝ってくれなかった。
カラ松兄さん以外に無視をするようになった。
あと平然を保っているのは僕とおそ松兄さんだけ。
………いや、僕は今、狂ってるかもしれない。
だって今僕は、カッターナイフで手首を切っているんだから。