第3章 落葉
泣かないでくれ、ブラザー。
左手で頭を乱暴に押さえながら右手で居間の襖を開けた。
「あ……れ……?」
居間を開けるとブラザー達は居なかった。
ただ、暗く、いつもの夜だった。
酷い頭痛も治まっていた。
あ…れ…?
俺、何でここにいるんだ?
何してたんだっけ?
何で俺、今泣いているんだ?
きっとあくびだ。
眠たいからあくびをして目が濡れてるんだ。
だけど目が覚めちゃったな。
「屋根で月でも見るか」
何となく口に出して言ってみた。
部屋へ戻ると、長い布団と同じ顔があった。
やっぱり、ブラザー達は寝ている。
可愛い寝顔だな。
弟は何年たっても可愛いものだ。
屋根を登ると俺と同じ顔の奴がいた。
少しぼさついた髪。眠そうな目で頭をぼりぼりと掻く。
「……一松?」
「んあ?カラ松か?俺はおそ松だっつーの。」
おそ松は寝癖がつくと一松そっくりになって見分けがつかなくなる。
「ところで、何か用?」
「いや、別に、寝つけなくて……」
「偶然、俺もー」
俺達はただ、屋根に仰向けになって月を眺めてた。今は満月。
「なぁカラ松。」
「ん?」
「いつか大人になったら、皆で月に行きたいっていってたの…覚えてる?」
俺はおそ松の発言に吃驚した。
そんな小学生の時の絵に描いたような夢、覚えてたのなんて俺だけだと思ったから。
「それは一松が言い出しっぺだったよな。」
「あぁ、今のアイツなら考え付かないけどな。」
「それで、段ボールでロケットを作ったよな。」
「そのあと、次の日が雨で壊れた時、チョロ松が泣いていたっけ。」
「慰めたのがトド松。」
「そこまで覚えてるなんてすげぇな、お前。」
「楽しかった思い出だからな。」
「____あんなこと喋っていた俺達ももう大人か………」
「あぁ、もう月に行こうと夢見てた大人だな。」
クスクスと笑っていると風が吹いた。
「わっ」
俺の顔に枯葉が被った。
「寒っ……、俺もう寝るわ。」
「あぁ、俺も寝る。」
顔に被った枯葉を取る。
枯葉の虫食いは泣いている顔にも見えた。