第8章 思い出の欠片
その様子を見た緑間は、かなり困惑した表情を浮かべていたが、結紀を抱き寄せる。抱き寄せられた結紀は、僅かに動きが止まったが、それでも悲しみの方が大きく、また泣き始める。
「泣いているお前をどうしていいのか、オレには分からないが…泣きたいのなら泣けばいいのだよ。オレが傍にいてやるのだよ。」
「…っ……。」
結紀は、嗚咽を出して泣いている。その間、緑間はとくに声を掛けることなく結紀に寄り添っては、頭を優しく撫でるのであった。結紀が落ち着くのは、暫く経ってからだった。
落ち着いた結紀は緑間に、ありがとう…と小さな声でお礼を言う。その時だった。何かの気配を感じたのか、緑間の背後の方を見る。それに気づいた緑間も後ろの方を見る。
「誰なのだよ。さっさと出てくるのだよ。」
緑間がそう言っても出てこない為、立ち上がり弓矢を構え撃つ。矢は遠くの方へと飛んで行った。矢の撃った隣の木から姿を現す人物がいた。
「お久しぶりっスね、緑間っち。」
「…黄瀬。」
ずっと隠れていたのは狐族の黄瀬だった。どうやら、緑間と黄瀬はお互いに知り合いのようにも見えた。黄瀬は、緑間の後ろにいる結紀が気になっていた。
「見るからに鳥族じゃないっスね。もしかして、人間なんスか?」
「………。」
まだ、吸血鬼族の頭首が"女性"だということは伝わっていない。だとしたら、普通に考えて人間扱い。結紀と緑間はあえて黙った。緑間はさりげなく結紀を守るように前に立つ。
緑間は無言のまま弓矢を構え、黄瀬に警戒をする。