第8章 思い出の欠片
だが、現実はそうではない。もう、彰は帰ってこないのだ。
「……緑君。」
「緑間なのだよ。いつまで、湖に入れておくのだよ。」
結紀の声はいつもよりもかなり弱々しかった。しかし、緑間はなるべくいつも通りにしようとしていた。緑間が声を掛けても結紀が湖から右腕を抜こうとしていなかったので、緑間は結紀の右腕を掴み湖から抜き取る。
低抗されるのではないかと緑間は考えていたが、その予想を外れるように結紀は低抗をしなかった。いつもの結紀ではないとわかる。掴んだ結紀の右腕は緑間が思ってたよりも細かった。
この細さで、どこからあの力が出てくるのかと不思議に思ってしまう。だが、一つわかるのが結紀の体温が冷たいということだ。恐らく、湖に付けていたから冷たくなったのだろうと緑間は考えていた。
やがて、緑間は結紀の右腕から手を放す。すると、緑間はヒョイと軽々結紀をお姫様抱っこをする。その状況に、結紀の思考停止になる。
「しっかり掴まっているのだよ。お前だけ、特別にとっておきの場所を教える。」
「…へ?」
緑間は、結紀の返事を聞かずに羽を広げ飛び立つ。その際に結紀は緑間の首に手を回し、しっかりと掴む。緑間の体温はとても暖かった。その温もりを感じて結紀は目を瞑る。
結紀を連れて緑間が来た場所とは、飛んでそんなに時間は掛からなかった。
「着いたのだよ。」
緑間の一言で結紀は瞳をゆっくり開ける。そこには、沢山の花が綺麗に咲いていた。