第7章 ・お出かけします その1
そういう訳で文緒はその日いつもより少し落ち着きなく義兄の若利の帰りを待っていた。帰ってきたら早速今度の休みに一緒に出かけたい事を言おうと心づもりをし、文机の引き出しをゴソゴソする。
「あった、これだ。」
呟く文緒の手にはチケットが1枚乗っかっている。
「あと1枚はコンビニで買えるかな。」
独りごちながら文緒は次にパソコンに向かってカタカタとウェブ検索をする。
「良かった、学校の帰りに買える。」
よしと1人気合いを入れる文緒の図は若利が見れば愛らしいと評するだろうが生憎高校生には見えなかった。
そうして若利は遅くに帰ってきた。文緒はとりあえずいつもどおり玄関で義兄を迎え、いつもどおり自室で彼が夕食を終えるのを待つ。やっている事自体はいつもどおりだがはたから見れば明らかにそわそわしている。箪笥の上の栗鼠の人形と家具をやたら触っては位置を変え、ベッドに腹ばいになって愛用の携帯型映像機器でインターネットに繋いで普段ほとんどやらないゲーム—無料で単純なミニゲームばかりだったけれど—をやってみたりする。
やがて廊下が軋む音がして文緒は携帯型映像機器をワンピースのポケットに突っ込み例のチケットを掴む。そのまま流れでタタッと部屋から飛び出した。
「兄様。」
声をかけると自室に入ろうとしていた若利はジロリと文緒を見る。しかし当人にはおそらく睨んだつもりがない。
「呼ぶ手間が省けた。入るといい。」
「はい。」
言われるままに文緒は義兄についていった。
部屋に入れてもらい、若利の隣に座ると早速聞かれた。
「用件は何だ。」
「実は」
いきなりそうくるかと普通なら突っ込むところだが慣れてしまった文緒はそのまま続けてしまう。この辺りが今も天然お嬢様呼ばわりされる所以だが今回の場合は当初気負っていた分逆に良かったのかもしれない。