第46章 ・年越し
大晦日、静かな牛島家、牛島若利の自室、若利の膝の上には愛する義妹がいる。
「今年ももう終わりですね、兄様。」
「ああ。」
「月日が経つのは早いものです。」
「そうだな。」
「このお家に来てから色々ありました。」
「そうだな。」
「若利兄様の妹になって、バレー部の皆さんと会って、文芸部でお友達も出来て、まさか他校の人ともお話しする事になるなんてまったく想像していませんでした。」
「そうか。」
「兄様はどうですか。」
膝の上の義妹が見上げてきた。愛らしい—少なくとも若利にとって—目に見つめられて若利はそうだなと呟く。
「俺もまさか兄になるとは思ってもみなかった。」
「そうでしょうね。」
「知っての通り当初は特にどうとも思わなかったが、こうも気に入ってしまうとは。」
「嬉しいです。」
文緒がきゅうと抱きついてくる。どうにも実年齢より幼く見えるのは相変わらずだ。若利はそんな義妹の華奢な肩を抱く。
「少し痩せたのではないか。」
普通ならお世辞として使われる言い回しだろうが若利の場合はそのままの意味である。
「わかりません、この所体重計に乗っていないので。」
対する文緒の返事も瀬見あたりが聞いたらそっちじゃないと突っ込むことだろう。
「そうか。」
勿論若利はそのまま話を進める。
「元々軽くて薄いが更にそうなった気がした。」
「兄様、毎度申しますが私は衣類や寝具ではありません。それにどうか心配しないでください。」
微笑む義妹を見て若利は思わず安堵のため息をついた。
「今だから言うが」
若利はポツリと漏らした。それは文緒を想うようになってからずっと密かに持っていた事だ。
「俺は時折不安に思っていた。お前の母親は体が弱い為早くに亡くなったと聞く。」
文緒は黙って話を聞いている。
「そしてお前もあまりに華奢だ。母親に似て先立つのではないかと思う事がある。」
「ちっとも気付いておりませんでした。」
「誰にも言った事がない。当然だ。」
「兄様もそういう事があるのですね。」
「俺も感情は持ち合わせている。」
「そうですが兄様はそうならないようにする事を先にお考えになると思ってました。」
「勿論だ。だが今の俺では力及ばぬ事も多々ある。」
若利はここで膝の上の義妹をぎゅうと抱きしめ直した。しばし兄妹は沈黙する。