第4章 ・ハヤシライス
その日はいつもより早く練習が終わって若利が帰宅したのは丁度夕食を家族と一緒に出来るくらいの時間だった。
「兄様、おかえりなさいませ。」
いつものように文緒が出迎える。
「ただいま。」
若利もいつも通り返事をする。
「洗濯物はどうされますか。」
「今日は頼む。」
「はい、引き取ります。」
「ああ、助かる。」
義妹は大丈夫ですよと微笑んで若利から洗濯するものを受け取り一旦奥へと去っていく。洗濯物の塊を抱えてポテポテ歩く様は相変わらず実年齢より幼く見えて若利はどうも落ち着かない心持ちになる。この義妹はどうして時折自分の心をかき乱すのか。それもまた義妹を愛している故に生ずるものだということを若利はわかっていない。もしチームメイトの天童あたりがいたら愛が溢れてるねえとからかい半分に言っただろうけど。
そんな今日の夕飯は若利の好物ハヤシライスだった。
「いただきます。」
言って若利は一口食し、おやと思って一瞬手が止まった。母がどうしたのかと尋ねる。
「いつもと味が違う。」
ああと母が呟き文緒が付け加えた。
「今日は私が作りました。」
なるほどそれで事がわかったと若利は思う。
「そうか。」
「お口に合いませんでしたか。」
「そうではない。」
若利は呟いてもう一口食す。確かにいつもと違うがこれはこれで悪くないと思う。そのまま若利は黙って食べ続け、母と祖母と義妹も静かに食べている。
「あの」
やがておずおずと言ったのは文緒だった。
「初めて作ったのでもし駄目なら仰ってくださいね。」
「難があるなら先に言っている。」
何を言っていると若利は思うがまだまだ自分の言葉が足りないことに気づいていない。それでも文緒は良かったと微笑んだ。
「おかわりは。」
「する。」
「承知しました。」
母と祖母がいるのに完全に自分らの世界だ。しかしその母と祖母もまたこっそり微笑み合っていると来ている。
「ご飯はこれくらいですか。」
「もう少し盛ってくれ。」
「はいどうぞ。」
「すまん。」
母と祖母が笑いをこらえている。2人の外見の差が激しい事も相まっているのか。