第20章 グレイ scene2
「さぁーとーしー?」
返事はない。
「ねえ…何で怒ってるの?」
家に帰る車の中から、ずっと口を聞いてもらえない。
家に着いたら速攻ソファに座ってテレビを観だした。
カバンから台本を取り出して、ずっとなにかマーキングしてる。
「ねえ、何してんの?」
そっと後ろから抱きしめるように台本を覗き込むと、梨奈さんと俺のシーンを全部赤で塗りつぶしてる。
「ぬおおおおっ!そ、それ、智の台本だろ!?」
「…助監さんから一冊貰った」
ぼそっと呟く声は低くて。
「智…?やきもち妬いてるの?」
また答えはない。
俺と梨奈さんのシーンを全部塗りつぶしたら、台本を放り出して膝を抱えた。
「…キスシーンあった」
「智…」
俺はソファの正面に回って、テレビを消した。
智に向き直ると、しゃがんで視線を合わせた。
「智?智とは毎日キスしてるでしょ?それに、わかってるよね。これが俺の仕事なの」
「わかってるもん」
それでも智は膝を抱えたまま微動だにしない。
「あの子…すっごい芝居上手…」
「うん…すっごいアホの子だけどね?」
「だから嫌」
「智…」
「今までの娘は、芝居ヘタクソだったから、全然大丈夫だった。でもあの子、凄く芝居上手いから潤が好きになっちゃったらどうしようって…」
ぎゅうっと抱えた膝におでこを埋めてしまった。
「…思った…」