第18章 ポンパドール scene2
コーヒーを口に流し込むと、ゴクリと飲み干す。
「よし…」
丹田に力を入れて、立上がる。
俺の人生の中で、今日ほど勇気のいることは無かったかもしれない。
俺が、俺で居られなくなるかも。
そんな予感までする。
とにかくどうなるかわからない。
全てはあの人に掛かってる。
本当はとても怖い。
でも…
ここを踏み出さないと、あの人は俺だけのあの人にはならない。
そんなのは、嫌だ。
リビングのガラス戸を開けると、タバコを消して智が手を振る。
「おはよ。今日は早いんだね」
ふにゃっと笑いながら俺に抱きついてくる。
髪を撫でながら、俺は智の身体を抱きしめる。
「ん…おはよう。朝ごはんたべる?」
「たべる」
胸のなかにいる温かい幸せ。
「じゃあなんか作るよ。顔洗っておいで?」
「うん。ありがと、潤」
ぺたぺた音を立てながら智があるいて行くと、台所に立つ。
簡単な朝食を作ってダイニングテーブルに置く。
戻ってきていた智は、俺の顔を見た。
「どうしたの?」
「ん?」
「なんか…静かだね」
「そう?」
少しだけギクッとしながら、隣りに座った。