第16章 グレイ scene1
こんなに近くにいるのに…
俺は最後の最後で、言えないでいる。
和はどう思ってるんだろう。
俺とこんな距離で居ること。
ぎゅっと抱きしめると、和の腕が俺の身体に回る。
きゅっとその腕に力が入る。
「ああ…あったかいや…」
俺の胸に顔をうずめながら、和が呟く。
「いつでも…温めてやるよ…」
リビングには灯りはつけていない。
月の光だけが、俺達を照らしてる。
「ほんとに…?いつでも…?」
和の小さな声がリビングに響く。
「ああ…いつでも…」
「ありがとう…嬉しい…」
嬉しい
嬉しいって…
なんか俺が嬉しいじゃねえか…
「ばか…こんなことで嬉しがるなよ…」
「だって、本当に嬉しいんだもん」
ぎゅっと俺の背中の服を掴む。
「このまま…温めて?」
どきっとした。
その声がなんだか、色っぽかったから…
「な、んだよ…こうやってればあったかいだろ…?」
「…もっと…して…?」
蚊のなくような声で和が言った。
「お願い…大野さん…」
そっと和が顔を上げて俺を見た。
その目は潤んでて、頬は上気して…
理性が飛んでいきそうになった。