第12章 退紅(あらそめ)scene2
新聞には、あの男が事故死だったと。
警察がそう断定したと書かれていた。
事務所がどういう手を使ったのか、わからないけど…
これであの事件には”犯人”は居ないことになった。
だから…
「うち…すっごい汚い…」
「え?マジで?」
「うん…片付けるから待ってて?」
「いいよ…俺も一緒にやるから…」
笑いながら智くんが部屋に上がってくる。
手をぎゅっと繋いで。
俺たちは見つめ合うと、微笑んだ。
リビングに行くと、テレビがついたままで…
あの男のニュースをやってた。
智くんはリモコンを手に取ると、テレビを切った。
「智くん…」
「うん…?」
「もう、全部忘れよう…?」
智くんは部屋を片付け始めた。
カーテンを開けると、窓を全開にする。
くるっと窓を背に、俺の方に向き直った。
「なんのこと?」
その笑顔は、どこまでも透明で。
佳麗で…
すべての汚いことを置いてきてしまったような美しさで…
どこか、冷たく。
どこか、淋しく。
背中を伝う汗が、俺を現実に引き戻す。
「さあ…なんだったかな…」
ぎこちなく笑うと、智くんは俺を抱きしめた。
「もう…邪魔するやつはいないからね…」
【END】