第10章 チャイニーズ・ローズ
「もう…翔くんのおもちゃ、卒業するよ…」
その時の翔くんの顔を、なんと表現すればいいんだろう。
狂気に支配されながら、切な気で、悲しい目。
一瞬、通り過ぎた表情。
俺の腕を掴むと、表に引きずり出された。
「ちょっ…翔くんっ…」
「櫻井さんっ…やめてっ!」
彼女が飛び出してきた。
「うるせえ…」
彼女を一瞥すると、また歩き出す。
「やめてくださいっ…潤くんをもう解放してあげて…!」
「解放…?」
「もう、潤くんの想いを利用するのはやめてください」
彼女が俺の腕を掴んだ。
「応える気なんて、最初からないんでしょう?」
「なにをだよ…」
「潤くんの気持ち、利用しただけでしょ?潤くんがいたら、彼が告白する邪魔だからって…全部聞きました」
翔くんがぐっと詰まった。
やっぱり…あの話はそういうことだったんだ…
「私は潤くんを選びました。潤くんを幸せにする自信があります。あなたに…そんな自信、ありますか?」
「も…やめろ…いいから…部屋入ってろ…」
「やめないよ…潤。だって…ここで負けたら…多分、一生勝てないもん…」
忘れてた…こいつも負けず嫌いなんだった…