第7章 虫襖-ムシアオ-
「どうだった?」
「うん…」
「また客が来てたの…?」
「多分…」
「そっか…雅紀…」
「ん…」
智が手を差し出してくる。
きゅっと俺の手を握った。
「…今は、好きじゃなくてもいい…そのうち、好きになってくれたらって思ってる…」
「そんな…智…」
「いいんだ…ずっと待ってたんだ…これからだって、待てるよ…」
「なんで…そんな…」
「雅紀が15年、ずっとニノのこと待ってたのと一緒だよ…」
じわっと涙が出た。
そう…俺、待ってた。
ニノが俺のこと、本当に好きになってくれるって…
そう思ってた。
でも…和也は、俺を愛してはくれない。
俺、もう疲れた…
もう待ってることに疲れた…
事務所の幹部に、ニノはとっくに借金を返し終わってるって、聞いてしまった。
じゃあ、なんでニノはこんなこと、今だにやってるの…?
なんで俺を売るの?
なんで自分を売るの?
わからない…わからないよ…
なんで俺とだけ、愛し合ってくれないの…?
俺に愛してるって言ったのは嘘なの…?
ねえ…和也…
教えて…
智の手が、またぎゅっと俺の手を握った。
「泣くなよ…雅紀」
そっと俺の身体を抱きしめた。
温かい…智の腕…