第20章 グレイ scene2
「なんでそんなこと言うんですか!」
「だって、和也が松岡さん松岡さんって言うから…」
「それはバイト先の上司に当たる人だからしょうがないでしょう」
「でもな…だからって」
「智がそんなに了見が狭い男だと思いませんでした」
「なんだよ…その言い方」
「俺が浮気するように見えるって、さっきからそう言ってるのと同じですよ?」
「そんなこと言ってねえだろ!」
「言ってないけど、同じ意味なんです!」
そう言って俺は智を残したまま駈け出した。
今日は週末で、二人で食材を買い出しに来ていた。
たくさん美味しいものを智に作ろうと思っていたのに、スーパーについたらこんなことを言い出した。
「なあ…和也って別に松岡さんとなんもないよな?俺と出会う前…」
そんなこと言い出すのは珍しかった。
別になにもないから、ないというけど、今日に限ってしつこかった。
「和也、松岡さんの話しし過ぎなんだよ…」
ちょっと不貞腐れた顔でツンと横を向いてしまった。
そこで俺は…柄にもなく腹が立ってしまって…言い争いになってしまった。
それでスーパーを飛び出してきてしまったのだ。
「…追いかけてもきてくれない…」
後ろを振り返って、愛しい人の姿を探すけど、そこには居なかった。
一人で家に帰っても、ずっと智は帰ってこなくて。
こんなこと初めてだった。
「けんか…しちゃった…」
ベッドの上で足を抱えて、ひたすら智の帰りを待った。