第6章 《ゆるゆる》
私は悩んでいた。
目の前に広がる風景に。
朝学校に来て目にした光景が、あまりにも非日常的で、処理が追いつかなかった。
どうしたものか。
「…赤葦、おはよう、うーんと、何してるの…」
目線だけをこちらに向けて口を開く彼。
「ロッカーの正しい使い方…?」
「ロッカーはベッドじゃないよ赤葦」
疑問系で帰ってきたヘンテコな答えに頭を抱えながらも会話を続ける。
「ロッカーは荷物を入れるためのものであって、寝るための場所じゃないの。第一、ロッカーの上なんかで寝てたら身体固まっちゃうよ、後で痛いよ?」
「うん、寝心地はあんまり良くないかな、は寝るなら保健室に行きなね」
…おかしい。会話ってなんだっけ。言葉と言葉のキャッチボールができてない。一応バレー強豪校の正セッターの身を心配して言ったのに。予想の斜め上の変化球を投げてきやがった。お主実は野球部か!?
…なんて冗談は置いておくとして。
「赤葦こそ、眠たいんなら保健室のベッドで寝た方が良くない?」
余談だが、梟谷高校の保健室のベッドはフカフカなことで(梟谷グループの中では)有名である。
「朝練あったんでしょ?」
「朝練はあったけど、いつものことだから」
寝ぼけ眼をこすりながら渋々ロッカーを降りる赤葦。なんだか可愛く見えた。
「そもそも、が来るの待ってただけだし…」