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君に唄う

第1章  私は唄う


「俺 東京の大学に行きたいんだ」

学校の進路の時間 隣の席の君は言った。

田舎者の私にとって 東京は遠い遠い世界だった。

「寂しくなるね」

私は涙をこらえて平然を装った。

高校2年の秋。

みんなが進路の話でざわつく時期。

私は当然のように進路希望の用紙に地元の大学を書いた。

君も当然地元の大学志望なのだと思っていた。

当然のように共に過ごした日々。

終わりの時など微塵も考えていなかった。

「卒業しても親友だよ」

そう君と約束した。

けれど、東京に行ってしったら君は

人混みに飲み込まれて

私の手の届かないところへ行ってしまうのではないだろうか。

私の事など忘れてしまうのではないか。

そう考えると心が砕け散りそうになる。

どうしても君との関係が薄くなるのが嫌だった私は

もっともっと君との思い出を作りたいと思った。

たくさん思い出をつくれば 

君はきっと私の事を覚えていてくれる。

そして君はもっと私の事を大事に想ってくれる。

それから私と君はたくさんの思い出を作った。

それでも私の不安は消えることはなかった。

そして高校三年の春 

あっというまだった。

私と君は無事、志望校に合格した。

嬉しさとともにこみ上げる君との別れに対する涙。

君との別れの時

ホームで私は君の肩に頭を添えて

唄うように言った。

「好き」

君は驚いた表情を見せた後

悲しそうな笑顔を見せて言った

「ごめん 俺好きな人居るんだ」

私は灰になって春風に飛ばされそうになる心を必死に抑えた。

「知ってた」

私は言った。

私は知っていた。

君が東京に行きたい理由を。

君は東京に 

愛する人と共に過ごすために

愛する人を守るために

愛する人を抱きしめるために行くんだ。

君は言った。

「ごめんね。でも俺、君のこと本当に大切に思っているよ。ずっと忘れない。離れてても、親友でいてくれたら、うれしい」

私は言った。

「あたり前じゃん、馬鹿。」









君は元気だろうか。愛する人と幸せに過ごせているだろうか。

私はまだ君が好き。

君の幸せを願う。

天気が良い。

こんなに澄んだ空の日は

君に声が届くのではないかと思った。

そんなはずはないのに。

私は君に向けて唄う。

君のための唄をー




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