第1章 少女の過去
私、乾くるみは、物心着いた時には孤児であった。
父親も母親も、知らない。覚えていない。
だから私は、私と同じような'”親なし”の子供達とともに育った。
子供達だけで暮らすのはとても大変だった。
食べ物を盗み、服や家具を盗み…
犯罪ばかり繰り返していた気がする。
だが、それを’悪’だと思ったことはなかった。
それがあたりまえだった。
それに、私には頼りになるお兄ちゃん、優しいお姉ちゃん、やんちゃな弟、可愛い妹達がいてくれた。
本当の兄弟のようだった。
だから私は不幸じゃない。
私には、大切な家族がいるのだから…。
…その1人が芥川だった。
彼は誰とも戯れず、いつも独りで過ごしていた。
決して笑わない。怒らない。そして、喋らない。
私の他の家族は、口をそろえてこう言った。
「あいつには話しかけても無駄だから」
私は兄や姉の言うままに、芥川と話すことなく、生き続けた。