第3章 接近
「馬鹿にしてんのかよ俺を」
雅紀「馬鹿にしてない。むしろそれはそっちでしょ」
「は?」
雅紀「お客さんなんだからさ…もう少し考えてよ。別に付き合ってくれとか言ってるんじゃないよ。太一先輩が来た時はいつも通りにしてくれって言ってるだけだよ。お店のナンバーワンでしょ?こんな事してちゃ店の名前にも傷が付くよ」
「………」
何も言えなかった。
彼が言ってる事は正論で。
怒鳴ってしまった俺が悪いんだ。
「………すみません、でした…」
俺は素直に彼に頭を下げた。
「………彼がもし…またここに来て指名してくれたなら…ちゃんと謝ります」
雅紀「いや、そこまでは良いんだよ。割りきれない太一先輩も悪いんだから」
「いや、謝らせて下さい…」
すると、彼はいつもの優しい微笑みを浮かべた。
雅紀「そっか。ありがとう。君なら分かってくれると思ってた。俺も…酷い事言ってごめんね」
「いえ…」
ぷるぷると首を横に振る。
すると彼は鞄を持って立ち上がった。
雅紀「じゃあ帰るよ」
「え?」
雅紀「俺それだけ言いに来たんだ。だからこれで帰るよ」
「まだ10分しか経ってない…あんたこの為だけに78000円払ったの?」
雅紀「まぁ…太一先輩は尊敬してる先輩だからさ。沢山助けられたし…安いもんだよ」
「………」
………何て人なんだ。
人の為に…それも身内でもない人間に安くない金払うなんて。
雅紀「じゃあ…」
部屋の扉に触れた彼の腕を、俺は無意識に掴んでいた。
雅紀「………ショウさん…?」
「………かないで」
雅紀「え?」
「………行かないで」
雅紀「………」
「………時間まで…側に居て…」
雅紀「………」
相葉さんは何も言わずに真っ直ぐに俺を見つめていた。