第19章 押し寄せる過去
ー雅紀sideー
「じゃあ先行ってるね」
翔「うん。気を付けてね」
玄関で靴を履いてるとその姿をジッと見つめる翔。
いつもの光景だけれど…何だろう。
この感じ。
「翔」
翔「ん?」
「………いや。何だろ…」
翔「ははっ。呼んだの雅紀だよ?」
「だよな…ははっ」
そう笑う翔は…いつもと変わらない俺の大好きな笑顔でそこに立ってる。
何だろう…この感じ。
違和感を感じてもそれを上手く口には出せない。
俺はゆっくりと立ち上がり、ドアノブに手を掛けた。
翔「雅紀」
「ん?」
振り返ると…目の前にふんわりとした髪の毛。
翔が俺に抱き着いてきた。
「翔」
翔「………雅紀の匂い」
「………」
翔「………愛してるよ雅紀」
「………愛してる。どうしたの」
翔「ん?急に思っちゃったから…」
「………そっか」
その身体を抱き締めて…俺はゆっくりとキスをする。
何故だろう。
急に脳裏に甦る…翔と初めて唇を重ねた記憶。
あの娼館で…初めて唇を重ねた。
あの記憶。
そっと唇を離すと…一瞬だけ、翔が泣きそうな顔をしていた。
でも直ぐに…元の笑顔に戻る。
翔「ほら。早くいかないと」
「あ…うん。じゃあ…待ってるから」
翔「うん」
「………本当に…待ってるよ」
翔「分かってるよ。本当にどうしたの」
「いや…ごめん。じゃあ」
翔「行ってらっしゃい」
笑顔で手を振る翔の姿を見ながら俺は家を出た。
この日から俺は…毎晩の様に見るんだ。
この…翔の笑顔を。
あれから…翔は俺の前から姿を消した。