第19章 押し寄せる過去
ー翔sideー
午後の仕事は酷くやり辛い空気で淡々と進んでいった。
気を使って明るく振る舞ってくれるお義母さんと祐輔くんとは真逆に…お義父さんと雅紀はお互い避ける様に仕事してる。
「ごめんなさい…」
雅紀母「翔くんは気にしないで。雅紀がアホなんだから。全く…あの時と変わってないのね」
「う…すみません…」
東京に居た頃…お母さんが泊まりに来た夜。
情事の声を聞かれてしまった。
あの時もそう。
駄目って言ったのに…。
スイッチが入った雅紀はいつも止まらないんだ。
雅紀母「仲が良い事は嬉しいのよ。まぁ、帰ってからにしてくれたらありがたいけどね」
お義母さんは笑いながら受け入れてくれる。
頭を下げながらテーブルを拭いていると店の扉が開いた。
「いらっしゃいませー」
振り返るとスラッとした派手な服装の女性がカツカツと入って来る。
「お一人様ですか?」
そういう俺を無視してお義母さんの元に歩いて行く。
女「ご無沙汰してます。私です」
雅紀母「え?」
女「ふふっ。これで…分かりますか?」
おもむろにサングラスを外すとお義母さんが驚いた顔をした。
雅紀母「まぁ。絵里ちゃん!?」
女「はい」
すると厨房から…驚いた雅紀がバタバタと出て来る。
雅紀「絵里!!」
絵里「雅紀!!久し振り」
雅紀「うわっ!」
その絵里と呼ばれた女性は笑顔で雅紀に抱き着いた。
「………」
絵里「変わってないね雅紀。本当にお店継いだんだ」
雅紀「ちょっ…とにかく離れろ」
雅紀が離そうとしてもなかなか離れない。
絵里「ねぇ。お客様にお水は?」
雅紀に抱き着きながら俺の方を見つめる。
「あ…すみません」
俺は慌てて厨房へ入って行った。