第15章 対峙
翔父「死ねよ…翔」
頭上で低い声が聞こえる。
人って…覚悟が決まったら意外に受け入れられるんだな、なんて思いながら衝撃が来るのを待った。
けど…。
雅紀「翔!!翔ーっっ!!」
目を開くと、扉が勢いよく開く音と共に雅紀が駆け上がってきた。
翔父「ちっ…!」
「ま、まさ…」
包丁を片手で構え直し、俺を後ろから押さえ込む。
雅紀「翔っっ!!」
リビングに飛び込んで来た雅紀の足が止まる。
翔父「動くなよ。動いたらこいつ刺すぜ?」
「雅紀…」
包丁の先が…俺の首筋を撫でる。
雅紀「止めろ!翔に手出すなよ!!」
翔父「うるせぇ!!俺はずっとこいつを殺す事だけ考えて生きて来たんだよ!こいつのせいで俺の人生目茶苦茶なんだ!!殺してやらないと気が済まねぇんだよ!!」
雅紀「勝手な事言うなよ!人生目茶苦茶なのは翔も同じじゃないか!!どれだけ翔が苦労したと思ってんだよ!!やっと平和に暮らせてるのに…もういい加減に2人を解放してやれよ!!」
翔父「うるせぇ!!」
あいつが…包丁を高く振りかざす。
もう…終わりだ…。
「雅紀…ごめんね…」
雅紀「止めろー!!」
雅紀が…持っていた車の鍵を投げつける。
翔父「あっつ!!」
完璧に顔面にヒットし、そのままの勢いで雅紀が体当たりすると…テーブルに頭をぶつけながらあいつは倒れた。
雅紀「翔!」
「ま、雅紀…」
あいつは…ピクリとも動かない。
気絶したみたいだった。
雅紀に強く抱き締められる。
雅紀「良かった…」
涙を流しながら何度も顔にキスされる。
「雅紀…ごめん…」
雅紀「謝るなよ。無事で良かった…。とりあえず怪我どうにかしないと。タオル」
雅紀が俺を抱えて立ち上がった瞬間だった。
後ろにゆらりと立つ…あいつの姿。
雅紀「っっ!!」
翔父「ぶっ殺してやる翔!!」
そのまま俺を目掛けて包丁が降り下ろされる。
雅紀「翔!!」
雅紀が瞬時に俺を庇う様に体勢を変えたと同時に…雅紀越しにズンと振動が走る。
一瞬…時が止まった様に感じた。
雅紀「う、っっ…」
翔父「ちっ…馬鹿かお前は…退けよ」
「ま…雅紀…!!」
視線を落とすと…降り下ろされた包丁が…雅紀の横腹に深く突き刺さっていた…。