第9章 tragic love②
「う、ん…」
扉が閉まる音で目が覚める。
「翔…?」
腕の中で眠っていた愛する姿はそこにはなかった。
まだ…温かい…。
今の音…。
「翔…!」
俺は慌ててベッドから飛び起きた。
けれど扉に手を掛けたと同時に…その動きは止まる。
追い掛けて…どうするんだ。
もう…これ以上一緒には居られないのに。
俺は…部屋に戻り窓のカーテンを開いた。
時計を見るともうすぐ9時。
夜と比べて多少人通りの増えたホテルの下から伸びる通りを俺は眺めていた。
「………」
暫くすると…翔がその通りを歩いて行くのが見える。
「………」
俺はジッとその背中を見つめていた。
するとその後ろ姿が急に立ち止まり、突っ立ったまま動かなくなった。
そしてその姿がゆっくりと振り返り…視線を上げた。
その視線の先は…俺。
「………」
俺が見てたのが気付いたのか。
偶然なのか。
俺達はジッと…見つめ合った。
本当に…俺達はこれで終わった。
もうきっと…逢う事は無い。
でもきっと…俺も翔も…忘れる事は無い。
こんなに…こんなに人を愛する事は…二度と無い筈だから。
こちらを見つめる翔は…笑っている様に見えた。
翔の口元が動く。
「………」
そしてそのまま踵を返し、再び歩き始めた。
今度は一度も振り返る事なく…俺の視界から消えた。
遠目からでも…何言ってるのかは3年間見続けた唇の動きで分かる。
「っっ…うっ…」
目頭を押さえ、溢れる涙を拭った。
俺は声を上げ、我を忘れて泣いた。
そして…翔との関係がこの日終わりを告げたのだった。
俺は泣きながら…翔のさっき放った言葉を何度も胸に刻み付けた。
『サヨナラ』と…。